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宇宙国家の揺籃から衰退まで

月はMCUが結成される以前より戦場となっていた。

そもそもなぜ人類が膨大なコストを費やしてまで地球外へ飛び出し宇宙居住区を築き上げたかというと、それは科学に対する投資ではなく、単純に軍事的意図があった為である。

宇宙進出は長期的な目線で見れば地球外資源の産出や人類播種による地球文明根絶のリスク分散などの多大なメリットがあるが、社会を主導する権力者たちにとっては歴史に残る偉業を成したという名誉を得る以上の実利は無い。

未来に対し無関心かつ無責任な権力者たちが重い腰を上げて宇宙進出を推進したのは、第三次世界大戦において制宙権の重要性が明らかになったゆえである。

軌道上から一方的に攻撃をなし得、地表から反撃を受けづらい宇宙兵器の実用化は、国家戦略そのものの転換を余儀なくするRMAであり、人類の宇宙進出の動機となったのであった。

長き揺籃の終わり

アーモロート危機に端を発した世界経済のブロック化は多くの紛争と絶え間なき国境の再編成を招き、人類社会は史上例を見ない規模の難民を抱え込む事となる。宇宙開発のディストリビューターであった旧アーモロート系企業は、急増した難民たちを旧い地上のしがらみに捕われない宇宙という新天地へと導いたが、その実態は宇宙移民という名の奴隷貿易だった。多くの移民は企業や政府の主導で行われる過酷な宇宙開発によって命を落とし、ごく一部の心身と運に恵まれた者たちは地球への憎悪を胸に抱きつつ世代を重ねていった。

先進国の一般社会に知られる事無く膨大な人命を礎に強行された宇宙開発は、22世紀半ばにして月面居住区の完成をもってようやく一区切りがついた。各宇宙恒久居住区の運営が軌道に乗り、軍事のみならず各種産業までもが宇宙に進出を始めた頃、宇宙社会に潜在する反地球感情を宇宙開発のモチベーションに昇華しコントロールする為に国連がMCUを結成したのである。それは地球の傀儡政権に過ぎないものではあったが、人類史上初めて地球外で設立された独立統治機構は抑圧され続けた宇宙居住者にとって民族的自意識の寄る辺となった。

早すぎる衰退

ただ最低限の衣食住を確保するだけで膨大な資源と労力を要する宇宙社会は、ある意味で文明未開の原始時代にあるとも言え、その過酷さ故に治安も劣悪であった。

MCUの結成は月とその周辺地域にひとまず経済的な安定をもたらしてはいたが、それは多くの貧困層の犠牲を糧に危ういバランスで成り立っている砂上の楼閣であり、内外にあらゆる致命的な不安要素を抱えたまま綱渡り的な治世が執り行われていた。これは、単純に宇宙居住区を運営する政治体制のノウハウが無かったゆえに強引で稚拙な独裁体制を敷かざるを得なかったためであり、更に言うならMCUが崩壊した後のシナリオも国連によって用意されており、指導者層からすればそれほど現体制の維持にこだわる必要がなかったためである。

結局、終わりを約束された人工国家の歴史は、市民らの想いも儚く地球上の列強諸国の代理戦争によって100年足らずで幕を閉じてしまう。

戦後の宇宙居住区は国連に信託統治されることとなり、旧MCUは事実上米国の準州となった。

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